雪や雹による競馬中止とダート変更

競馬のハナシ

レース途中の開催中止

今日(2019年5月4日)の東京競馬は、3時頃から突然降り出した雹(ヒョウ)の影響により、馬場の状態が安全とは言えなくなったため、10R以降のレースが中止となった。メインレースであるダービートライアルのプリンシパルSは、翌週行う予定との事である。

雪などの悪天候による開催中止はよくある事だが、雹の影響で、かつ朝からではなくレース途中での中止というのは珍しい。レース途中での開催中止は、2005年の中京競馬以来で、このときは降雪によるものであった。

ダービートライアルのプリンシパルSが今日できなかったのは残念であるが、ここに向けて調整をしてきた陣営にとっては、もっと残念な事だろう。来週に向けて順調に調整ができることを祈るばかりである。

プリンシパルとは?

プリンシパルSの「プリンシパル」という言葉、聞いた事があるがハッキリと分からないという人が多いと思う。私もそうであったが、調べたところ「主要な」「最重要の」という意味であり、さらには「バレエの主役」や「校長」という意味もあるらしい。

同じダービートライアルとして、有名なNHK杯という歴史のあるレースがあった。そのNHK杯には数々の逸話があり、たくさんのドラマが繰り広げられた。

最強馬の1頭に数えられるカブラヤオーは、皐月賞・NHK杯・ダービーというローテーションを組んで全て勝ったが、単に2冠とトライアルを勝ったというだけでなく、歴史があり格の高いNHK杯を勝ったというところに、その強さを垣間見ることができる。

第一次競馬ブームの立役者、ハイセイコーも同じローテーションだったが、そのハイセイコーのNHK杯はハイセイコーが「負けない馬」と言われる基となった、伝説のレースとなっている。但し、ハイセイコーはNHK杯を勝つものの、本番のダービーは敗れている。

ハイセイコーとNHK杯

地方競馬で6戦6勝、それも常に7馬身以上の差をつけて勝ってきたハイセイコーは、中央初戦の弥生賞、次戦のスプリングSを難なく勝ち進み、皐月賞も1番人気に応え快勝する。ちなみにこの皐月賞のハイセイコーの単勝オッズは200円であった。

かなりのレース数を走ってきたハイセイコー、陣営はダービーへの直行か、NHK杯を叩くか迷ったが、初めてのコースでは物見をするハイセイコーのため、ダービーと同じ東京コースのNHK杯を走ることに決めた。

この時の人気は異常なもので、単勝オッズは元返しの1.0倍。正直、当たっても元、外れたらゼロという、買ってはいけない馬券である。それでも売れたというから人気の凄さが分かる。

そしてレースはというと、4コーナーで内でモタついたハイセイコー、残り200mでは「届かない」位置と思われたところ、一歩一歩差を詰めてゴール前ではアタマ差の勝利を収める。

私も改めてレースを見てみたが、残り200のところで完全に終わっている。馬券を捨ててもいいくらいだ。あそこから勝つなんて考えられない。このレースが、ダービーでの単勝支持率66.6%という当時最高の数字(その後ディープインパクトが73.4%で記録を破る)を叩き出した原因であるのは間違いない。

話は逸れたが、NHK杯とはプリンシパル(重要)なレースであったという話である。その後、ローテーションのキツさや競馬体系の変化により、NHK杯はダービートライアルとしての意味を失い、NHKマイルカップへと変貌を遂げ、代わりにプリンシパルSが創設されたという訳だ。

ダートへの変更

新しいファンは知らないだろう。芝のレースがダートに変更されて行われるなんてことは。今では考えられない事だが、昔は重賞でさえ芝のレースがダートに変更される事があったのだ。

芝のレースがダートに変更されたら、予想はイチからやり直し。というより、予想できないというのが本当のとこだろう。それが重賞なら尚更で、例えば今年の日経新春杯は、次走の春の天皇賞で2着となるグローリーヴェイズが単勝1番人気に応え勝利したが、これがダートに変更されていたらどうなっていただろうか。

なお、ダートへの変更の際には、芝のレースでの距離に対して変更されるダートでの距離というのが決められているらしく、同じ距離にはならないようだ。

例えば京都の芝の2000mはダートの1900mとなるようで、実際に2008年の2月に変更されたレースがあり、この時から京都コースのダートの1900mというレースが知られるようになり、またレースとして普通に組まれる事が多くなった。

ダートへの変更は遠い昔

話を戻す。昔はよく行われていた悪天候の際の芝からダートへの変更であるが、今は「その条件への出走に向けて、各陣営が馬を調整しているため、極力、条件を変更するような対応は避けるべきだ」との考えから、ほとんど行われることは無く、2008年2月24日の京都開催以来、行われていない。

また、芝とダートではフルゲートが違うため、例えば芝の18頭立てのフルゲートの番組で、実際にフルゲートの18頭が揃っている場合、それが原因でダートのレースへの変更ができなくなってしまう。

そのため、冬場のレースではダートのフルゲートに合わせて、芝のフルゲート頭数が制限の上、開催されている。しかし、その制限自体が中京競馬場では2008年に解除され、他にも一部重賞などではその制限が解除されている。

要するに、長い天候不良による長期に渡る開催中止などの緊急事態に備え、ダートへの変更というシステムは残すものの、現実にはほぼ有り得ないということであり、特に春に向けての前哨戦となるレースが多い冬という事もあり、その扱いには大賛成であるが、一方で語り草となるようなレースが無くなる寂しさもある。

エルコンドルパサー

NHKマイルカップとジャパンカップに勝ち、凱旋門賞で日本馬最高(令和元年5月現在)の2着となった、こちらも最強馬の1頭とされるエルコンドルパサーも、ダート変更されたレースを走った1頭である。

脚元の不安から新馬戦・2戦目をダートとしたエルコンドルパサーは、そのダート2戦を楽勝し、次戦はいよいよ芝適性が試される芝の重賞「共同通信杯」に挑む。

共同通信杯は、春のクラシックに繋がる重要な前哨戦であり、展開いらずと言われ馬の力通りの結果となることが多い東京芝の1800mであり、エルコンドルパサーが出走する第32回までにも、ミスターシービー(第17回)、サクラユタカオー(第19回)、ナリタブライアン(第27回)と名だたる名馬の勝っているレースである。

その共同通信杯が、その年は積雪の影響でなんとダートの1600mに変更となる。なお、この場合重賞の格付けは無くなるため、本来G3のこのレースであるが、この年の共同通信杯は、格付け無しの「重賞」と表記される。

もちろん、エルコンドルパサーはこのレース楽勝するのだが、結局、芝適性は次のレース(NZT4歳S、ニュジーランドトロフィー)へ持ち越しとなり、競馬好きで有名な林修などはそのレース、エルコンドルパサーの芝への適性が信じられず、他の馬から買って大敗したらしい。

エルコンドルパサーほどの馬だからこそ、後に語られるレースとなるが、しかし、やはり本来は芝でないと意味の無いレースであり、陣営としてはたまったものではないだろう。

競馬も社会も

今日のプリンシパルSは、やはり陣営にとってもファンにとっても中止で仕方なく、これがダートに変更されていたら、全く意味のないレースとなる。ダートのオープンレースで勝った馬にダービーへの優先出走権が渡っても、仕方ないだろう。

しかし、一方でこれがもしダートへ変更され、その勝馬がダービーへ出走して好走するなんて事があれば、伝説となるだろう。また、ダートを走らせるつもりが無かった馬が、こういうダートへの変更により仕方なくダートを走らせたら、トンデモなく強かった。と言う事もあるかもしれない。

いや、クロフネの武蔵野Sなどはまさにそれなんじゃないか。本当なら秋の天皇賞に進むはずが、2頭の外国産馬枠が埋まってしまったことで出走できなくなったため、試しに一度走らせてみようと思ったダートの武蔵野Sで9馬身差のレコード勝ち。

続くジャパンカップダートでも、7馬身差のレコード勝ち。残念な事に、その年の冬に屈腱炎を発症し引退してしまうのだが、だからこそ、この武蔵野Sがなければ、クロフネのダートでの強さは知らないままだったかもしれない。

これは賛否あるだろうが、競馬も社会も小さく大人しくなり、常識にかかる分、理不尽さは無くなった反面、飛び抜けたヒーローの出にくい社会にもなっているような気もする事は、少し寂しい。

最後に、今は来週のプリンシパルSが無事に終わる事を祈ろう。そして、ローテーションは厳しくなるが、それをも凌駕するプリンシパルSの強い勝ち馬が、ダービーを制するなんてストーリーを夢に描いてみよう。

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